【ユーコン:ホワイトホース〜ドーソン】ツーリング開始(7月18日)
2016年 11月 05日
朝。重たいベアバレルと100リットル超の防水バッグなどを2回に分けてカヌーピープルまで運び、受付で今日が出発日だと伝えた。
受付にいたのは前日まで店にいなかったオーナーのスコットさんだった。彼は野田さんの旧来からの友人で本にもよく登場する。野田さんに紹介されてここを選んだと伝えると喜んだ。
「(野田さんには)彼が筏で下って以来、もう2年も会ってないよ」
「多分、もう一度来たがっていると思いますよ」
スコットが道具の説明をしてくれた。「やっぱりクマのことが心配なんだよね」と問うと、「きちんとやるべきことをやってたら大丈夫。火傷も切り傷もそうだけど、旅で起こる問題は大体バカなことをした時に起こるもんだよ」と彼は行った。ちなみにカヌーピープルで客がクマに襲われるという事故が起こったことはないという。
また彼は付け加えた。
「ベアバレルの上に洗った食器を置いておくといい。クマが触って食器が落ちたら音がするから『おっおー、問題が発生だぞ』と教えてくれる」
なるほどそれは頭がいいと思ったが、出発してから思った。で、その後はどうすればいいんだ?
午前10時半、出発。ギアを入れて来たスーツケースはカヌーピープルが預かってくれた。
初めてのカナディアンカヌーは滑るように水面に出た。カヌーピープルの建物があっという間に通り過ぎる。シングルパドルの操作法はまだぎこちないが、この後、嫌というほど練習できるだろうと思った。
快調にカヌーが流される場所があれば、定期的に1キロ以上ある池のようなの淀みが訪れた。離陸した水上飛行機が頭上を通り過ぎ、遠くの木にはハクトウワシの姿も見える。
水際のアシにルアーを投げたり、トローリングしたりしてみたが、残念ながら当たりはなかった。どんな場所に魚がいるかは、まだ手探りだ。
午後5時、地図にGood Campと書かれている場所に着いた。
そこで川に出て初めての旅行者に会った。旅行者はデンマーク人のジョナスとその彼女。ユーコンは3回目だという。「デンマークにはこんな川がないからね」と彼は言う。
川地図にはキャンプ地の情報が多く書かれていて、次のようなレベルで分類されている。
Developed Camp(整備されたキャンプ場。ベンチや机、トイレもある)
Good Camp(平ら快適。ベンチなどがあることも)
Potential Camp(キャンプの可能性のある場所)
といった具合だ。
このほかExcellent CampやVery Good Campもあるが、Good Campとほぼ同じと考えて良いと思う。Excellentが腰までの雑草に覆われ、Goodが眺めも良い最高の場所だったこともあるからだ。おそらくは作成者の主観か地図ができてからかなり時間が経っているかだろう。
今日たどりつけそうな範囲にもGood Campはまだありそうだったので、僕は先に進んだ。もちろん、これらのキャンプ地以外にテントを張ることも可能だ。
少し行くと全長52.5キロの細長い湖、レイクラバージュに入る。パドラーはここを横断しなければならない。
日が傾き、光が暖かい黄色に変わってきた。茂みでガサガサという音がしたので目を向けてみるとクロクマが顔を出した。やっぱりいるんだ。まさか初日から出会うとは。
右岸の方が沿岸が起伏が少ないので岸沿いに安全に進めるとされていて、その通りに進んだ。ただ数時間漕いで、自分が地図上のどこにいるのかわからなくなった。地図が示すGoodCampがどこなのか全くわからない。
GoodCampを突き止めるのは諦めてビーチに上陸し、テントを張った。焚き火の跡があり、以前にもキャンプした人がいるようだった。
初めてのカナダのキャンプ地。水辺から10メートルも離れればそこは森となっていた。さっきクロクマがいたのもこんなところだった。ビーチにはしっかり熊の足跡もあった。
食料はどこに置こけばいいのか。
いざという時に逃げられるように、カヌーはテント近くに置くべきだろうか。
森で用をたす際は、どれくらいまでが安全なのか。
とにかく自分が思う正解を信じるしかなかった。
食事を終えてテントに入り、寝袋に潜り込んだが、風音が全てクマの足音に聞こえた。最初は何度も飛び起きたが、疲れていたのか、しばらくするとすぐに深い眠りについてしまった。