新居拓也のブログ。2016年夏、カナダのユーコン川を下ってきました。前職は地方紙記者。元川の学校スタッフ。


by n11t

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川は蛇行を続けていた。曇り空は気がかりだが、カヌーは気持ちよく進んでいた。出発して少しして10人ほどの団体が僕を追い抜いていった。

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そろそろノーザンパイクが釣りたかった。ユーコンで釣れると踏んでいた魚は2種類だ。昨日グレイリングは釣ったが、まだパイクがどのような場所にいるかが掴みきれていなかった。

昨日ウルフが「以前支流の流れ込みで釣った」と言っていたので、支流が流れ込んでいた場所で上陸した。バイブレーションプラグを投げると、1投目で水面が割れ、小さなパイクが食いついた。狭いスポットだったので倒木に巻かれるも、手で解いて確保した。「パイクはいれば食ってくる」という感覚でいいのかもしれない。

釣ったパイクは食べるまで鮮度を保つため、顎にストリンガーを通して曳航することにした。同じ流れ込みではもう1バイトあったが、バラしてしまい、その後あたりはなくなった。

それからシャワーのような本格的な雨が降った。

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パイクを釣った支流の流れ込み地点。小型が多かった。

川が右へ大きく曲がる場所で、水が左側に溜まって湿地帯を作っていたので上陸した。水面からカヤ系の植物がたくさん顔を出していた。カヌーピープルではスコットが言っていた。
「こんな草が水面から顔を出している場所ではパイクが釣れるよ。あいつらはいつでも腹が減っているからルアーは何でもいい」
それはこんな場所かもしれないと思った。

水深は深くて1メートルほど。50センチほどの浅場をプロペラがついたトップウォータープラグを投げると、魚が水面直下を走り、ルアーに食いついてきた。残念ながら針がかりせず。続けて投げるが反応なし。ポイントを変えると、そこでもいきなりのバイト。しかしまた掛けれず。ここでももう食いつかなくなった。同じスポットに何匹もいるような魚ではないようだ。

僕がユーコンに持って言っていたルアーロッドは小学生の時に買ったブラックバス用のベイトタックルだ。当時、世間ではブラックバス釣りが流行った時期で、家の近所にはブラックバスなど生息していないにもかかわらず入れ込んでいた。ただ、この竿とリールに魚がかかることはほとんどなかった。どうにか活躍の場を作ってやりたいと、扱いやすいスピニングではなくこの竿を持ってきたのだった。

歩いていると周囲にやたらと動物の跡が多いことが気になった。2種類の足跡、恐らくはクマとムース。よく見てみると、周囲の植物は全てブルーベリーで、実が鈴なりになっていた。

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僕は生のブルーベリーが他のどの果物よりも好きなのだ。思わず「おお」と声が出た。興奮して鍋を取りにカヌーまで走った。とってもとってもまだまだある。3つに1つは口に入れた。体がビタミンをほしがっていた。

満足するまでブルーベリーを食べた後、カヌーに乗ってルアーを投げた。別の淀みで1匹かけるもまたバラシ。本当に僕は下手!諦めて帰ろうとした時に、カヌーの真横を大きなパイクが通り過ぎるのが見えた。慌てて竿を構え、泳いでいった先へ投げると、グン。確実な重みを感じた。

パークは力強く水平に走った。たまに首を振るその1つ1つが力強い。カヌーの上に引き上げて無事確保。大きさは50センチほど。思わず一人でガッツポーズした。

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ノーザンパイク

その後、1時間ほどで、テスリン川とユーコン川の合流地点フータリンワに到着。かなり整備されたキャンプ地で、ベンチや机、焚き火の場所ファイヤーピットがあった。テスリン川はとても大きな支流でホワイトホースを出発する代わりにテスリン川から下る人も多い。

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午前中に僕を追い抜いていった団体がいた。ガイドはマックスという長身の男だ。一行は水上飛行機でレイクラバージュの端まで移動し、今日が2泊目。2週間ほどかけてドーソンまで行くという。

「君は一人?」
「そう。いろいろ大変だけど自由でいいね」そう答えるとマックスは言った。
「僕もそう思うよ。さっきもお客さんに言ったんだ。次は一人で好きなように旅するのもいいよって」。マックス、それを客に言うの、旅の終盤でよくない?


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by n11t | 2016-11-17 07:00 | ユーコン川
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朝までぐっすり眠れた。孤独にクマに耐えた前日とは違い、隣に人がいるのは心強かった。

起床て僕はフランスパンをかじった。ウルフガングとマリアンは小麦粉をこねてパンのようなものを作っていた。僕のメモでは「パトック」か「パメック」と書いてあるが、正しくはわかならい。作り方はこうだ。

【材料】3カップの小麦粉、塩少々、大きいスプーン2杯のベーキングパウダー、水2カップ
【作り方】材料を混ぜて、油かラードで焼く。

ウルフガングが僕に釣り糸の結び方を聞いてきた。今ままで適当にやっていたらしい。
「釣りはユーコンでしかしないんだ。オーストリアでは1時間待っても釣れないけど、ここに来たら一投ごとくらいのペースで釣れるものね」

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のんびり準備して出発。1時間ほど漕ぐと湖の端にたどり着いた。
これだけ大きな湖なのに、流れ出しは驚くほど小さい。

レイクラバージュで同じ景色に見飽きていた分、川が流れて、次々と変わる景色に心が躍った。太陽の光も差した。
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ウルフとマリアン

川岸にいたウルフとマリアンが「もう2匹釣ったよ!」と大声で叫んだ。
え、こんな場所でも釣れるの?。そこは2メートルほどの水深で、流れはあるが瀬や渦などの変化には乏しい場所なのだ。やはり魚影はとても濃いらしい。

午後の早い時間にキャンプ地に到着。USベンドを超えてすぐの場所で、中洲が小島になっている。ベンチと机があった。

少しして、ウルフとマリアンがやってきた。キャンプ地を観察し「ここでキャンプをしてもいいか」と聞いてきた。彼が許可を求めてきたのは、前日こんな会話をしていたからだ。
「タクはなんでユーコンに来たの?」
「うーん、そうだね。1人になって厳しい場所に身を置いて、いろいろ考えたかったかな」
だからウルフは気を使ったのだ。
「大丈夫だよ。1人になれる日なんて、これからいくらでもあるさ」

ここは野田さんが「ユーコンを筏で下る」の中で「魚がよく釣れるキャンプ地」として紹介していた場所だ。初めてのフライフィッシングを練習する場にはぴったりではないかと思った。

テントを設営して釣りへ。この小島では右側が水深が深い本流で、左側が浅い支流になっていた。僕は左側を選んだ。


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釣り場。グレイリングの撮影は忘れてしまった。


高校1年の時に映画リバーランズスルーイットを見て、こんなに美しい釣りがあるのかと思った。その”a river runs through it”(川がそこに流れている)というタイトルも「それ以上の意味は自分で考えて」と語りかられているようでよかった。僕はその後、川の学校で子どもにメッセージを書くとき、必ずその”a river runs through it”と書くようになった。

ずっとフライをやってみたかったが、普通の釣具屋で道具を扱っておらず、敷居が高くて踏み出せていなかった。今回、フライ好きの店長がいる「いはら釣具本店」で道具を揃えることができた。店長は駐車場でキャスティングまで教えてくれた。

ちなみに店長は、僕が「カナダに行くのでフライの道具を揃えたい」と聞いた時、「経験がないので対応できないと思います…」と言っていた。でっかいサーモンなどを釣るのかと思ったらしい。結局、「その後ニュージーランドにも行くので、ニジマスを釣るくらいのタックル」というのでそろえてもらった。すみません店長、カナダくんだりまでやって来て、釣るのはグレイリングというマイナー魚だったんです。

さて、実釣。まずはアメゴのエサ釣り感覚で瀬を流す。すぐにサーっと流れていってしまった。もう1投。あたりはない。
でもこの辺は予想通り。確か店長は「通常、フライは自分より下流側で釣る」と言っていた。ポイントは瀬が終わるあたりだろう。移動し、流れ切ったあたりを漂わせていると、ラインが走り出した。柔らかいロッドがぐにゃりと曲がり、指で押さえたラインがずずずと引き出される。リールのドラグに頼らない直接的なやりとり。これがフライの醍醐味か。30センチ弱の綺麗なグレイリングだった。

結局、ここでグレイリングを計3匹を釣った。
夕食はマリアンがカレーを作ってくれると言った。「昨日から食べさせてもらってばかりで申し訳ない。何か作るよ」と申し出ると、魚料理をリクエストされた。「日本人なんだから得意でしょ」

僕はレパートリーもそれほどないので、釣ったグレイリングを三枚におろし、塩胡椒と混ぜた小麦粉をまぶして油であげてフライにした。これに「日本人は何にでもこれをかけるんだ」と説明して醤油をかけて完成した。2人の感想は”Interesting”。「口に合わなかった?」と聞くと「良い”interesting”よ」最後まできれいに食べてくれた。

僕がたった1品のフィッシュフライを作る間に、マリアンは数種の野菜を刻んで炒め、カレー粉やスキムミルクを混ぜ、米を炊いてカレーライスを作り上げていた。彼女はキャンプにいろいろな材料をバランスよく持ってきているようだった。「こんな荒野でよくこれほどの料理が作れるね」と感心すると「ピザでも作れるわよ」と言う。包み焼きの形にし、熾火の中で焼き上げるのだと言う。ラーメン、パスタとドライフルーツで乗り切ろうとしていた僕には衝撃的だった。

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またウルフはかまどの両脇にはY字の柱を二本立てて横に棒を渡し、レ字の型のフックを作って鍋を吊るす設備を作った。外国のキャンプの写真で見たことがあるが、実際にやっているのを見たのは初めてだ。そしてこれが料理を飛躍的に便利にしていた。

ちなみに2人は調理用のコンロを持ってきていなかった。たとえ雨でも焚き火を熾して調理するのだという。「どんな時でも火を起こす方法を知っているからね。」これはもしかすると、トラッカースクールで学んだことなのかもしれない。

ちなみにこの2人、彼氏と彼女ではないと言うことが分かった。一緒のテントだったからそうだと思い込んでいたが、お互い「ベストフレンドの一人」なのだと言う。ウルフはオーストリアに彼女がいて、この旅が終わるころにカナダに来るらしい。もう一度この川を降ろうかな、と言う。本当にユーコンが好きなんだな。

最後にウルフはバナナチョコレートをデザートに作ってくれた。皮がついたままのバナナに切れ目を入れ、チョコレートを挟んで焚き火の上へ。チョコが溶けたら出来上がり。ほんのすこしの工夫でなんと美味なことか!

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同じ荒野でも、知識と技術で楽しめるレベルがこれほどまでに変わってくるのか。2人とのキャンプでは目から鱗が落ちっぱなしだった。中盤の街カーマックスではいろいろな食材を買って料理してみよう、やれることはなんでも試してみようと思った。




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by n11t | 2016-11-15 07:00 | ユーコン川
夢を見ながらも音で感づいていたが、外は風がありかすかに雨が降っていた。起床。

ベアバレルは歩幅計算できっちり100メートル離れた場所に置いていた。置いた食器はそのままだった。クマは来なかったようだ。

キャンプ地ではカヌーを空にし、ひっくり返して岸の木などに結びつけておくように教わっていた。強風で吹き飛ばされないようにするためだ。薪をカヌーの下に置いておけば、雨が降っても翌朝焚き火が起こせる。

荷物をパッキングし、積み直すのに1時間ほどかかった。午前8時15分、カヌーを押し出して湖に出た。


岸から10メートルほど離れて漕いだが、自分のスピードの遅さがわかって嫌になった。

「レイクラバージュは長いよ」「レイクラバージュには気をつけて」

ユーコン経験者は誰もがそう口を揃えたし、旅行記にもそう書かれていた。


水上の波はそれほどでもなかった。

カヌーピープルでは「転覆した際に危険なので、岸から100メートル以上は離れないこと」と口を酸っぱくして言われていたがこれくらいなら大丈夫なのではないかと思ってしまった。

ただ少しでもショートカットしたいと思って、時には300メートルほど離れて漕いだ。

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景色が一向に変わらない。実際は少しづつ変わっているのだが、あまりにも少しずつすぎて変わっている気がしないのだ。


どうすればシングルパドルが最大限の水を掴んでくれるか、どうすればカヌーがスピードを失わずに漕ぎ続けられるか、一漕ぎ一漕ぎ考えながら漕いだ。


結局、カヌーは止まった状態から動かし、軌道に乗せるまでが最も力を使うし、時間も消費する。

これは昔、吉野川独自の和船、かんどり舟の操船を教わった時に学んだことだ。かんどり舟は全て木でできており、また木に水を含ませることで材の間の密着性を持たせる。すなわちとても重く、スピードに乗せるまでが大変だし、軌道に乗ってからも余計なことをしてはならない。名人はこの船を櫂1つで操り、川を遡る。残念ながらこの舟はもう製造されていない。舟を作る釘がないのだと言う。


地図の地形と見える風景を照らし合わせてながら進んだが、どこのいるかがわからなかった。

左岸にある島からして、自分は湖の中盤にいるはずなのだが、該当する地形が右岸にはないのだ

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太陽は時折顔を出した。

僕は湖が最も狭くなり、両岸が岩場になっている場所に差し掛かっているようだった。思ったよりも進んでいる。


ブラックバス用のクランクベイトでトローリングして見たが当たりはなかった。

ここにはレイクトラウトという魚が生息して、彼らは深みにいるそうなのだが、それを知ったのは後のことだ。


後ろから2人乗りのカナディアンが追いついた。

オーストリア人の男女で、男性がウルフガング、女性がマリアン。


「僕は日本から来たんだ」

「そうか。僕には日本人の友達がいるよ。トラッカースクールで出会ったんだ」

「トラッカースクールの日本人……」


トラッカースクールとはアメリカ・ニュージャージー州にあるネイティブアメリカンの古来の教えを伝えるサバイバルスクールだと知っていた。なぜならば、僕の友人が過去に受講していたからだ。


「それって、優作?」

「そう、ユウサク!なんで知ってるの?」


優作は川の学校のスタッフとして出会った。当時僕は支局長という大層な肩書きをいただいて、僕しか支局員がいない地方支局に赴任していていた。彼はその支局に数週間居候していた。その時、トラッカースクールの話を聞いたり、本を借りたりしていたのだ。


「ユウサクは日本に帰ったらレンジャーのようなことをしたいと言っていたけどどうしてるの?」

「去年リバーガイドをやっていたけど、今はフリーのプログラマーをしているはずだよ」


優作は東大を卒業し、大企業でプログラミングをしていたのだが、違った生き方をしようと退職。その後、カナダに渡ってロシアの武術・システマの修行をしたり、アメリカでトラッカースクールに通ったりして帰国した。

車を買って四国や関西を転々とし、高知を気に入ってリバーガイドをしていたが、そのころできた彼女に吸い寄せられるように大阪へ移り、またプログラミングの仕事に戻った。そして気づけば結婚していた。

「よかったら今晩、一緒にパスタでも食べよう。大量に買ったから作ってあげるよ」とウルフとマリアンが言ってくれた。


カナディアンの2人乗りは1人乗りに比べて1.5倍はスピードが早い。

だけれど2人は双眼鏡で野生動物を探したり、おやつを食べたりしながらのんびり進んでいたので、体育会的に漕ぎ続ける僕とは抜きつ抜かれつだった。

午後7時、間食のラーメンを食べる。ここも地図に記されたGood Campだった。

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ガイドブックによればここもグッドキャンプ


再出発してすぐに、後ろから2人乗りのカヌーやカヤックが次々と僕を追い越すようになった。

「レースがあるんだ」とは出発直前にスコットから聞いていた。ユーコン・リバー・クエストといい、有名な犬ぞりレースユーコンクエストのそのカヤックカヌー版だ。僕の工程と同じく、ホワイトホース近辺からドーソンまで下るらしい。2015年の優勝者のタイムは44時間51分7秒。ちょっと待ってくれよ。それじゃあまるで10日かけて下った僕が苦労してないみたいじゃないか。


カヌーピープルでは2人のイギリス人がレースに向けて準備していた。細身の体で髭を生やしたいかにもアウトドアマン。名前は忘れてしまった。多分いろんな冒険をやっている人なんだろう。すごい人がいるもんだ。


午後9時になった。どんよりと暗いのは空を覆う雲だけでなく、日がほとんど沈んでしまったこともあるだろう。時折、細かな雨が降った。

この日照なら焦げるのは午後10時が限度だろうと思った。ただ湖の終盤だと思われるが、未だ現在地がどこかはわからない。水際もゴツゴツしていて傾斜が多く、キャンプ地を探すのが大変そうだった。ウルフとマリアンはかなり先を行っているようで、広い湖にもかかわらず、見えなくなっていた。「今晩一緒にパスタを」と約束してしまった以上、僕が現れなかったら心配するだろうか。でも今は日暮れが一番の心配だ。

追い越していくユーコンクエストのカヌーやカヤックだけが人の存在を教えてくれる証拠で少し僕を安心させてくれた。でもすでに十数艇が通り過ぎていた。もうすぐ僕は取り残されるかもしれない。レースの参加者が追い越しざま”3 bahind!”(後ろにはあと3艇!)と教えてくれた。ゴツゴツした湖畔でクマに怯えながら夜を過ごすべきか、ウルフたちがいるキャンプ地が現れるのを信じて進むべきか、決断を迫られた。

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遠くから次々と訪れ、あっという間に僕を抜き去るレースの参加者たち


ため息が増えていたその時、岬に手を振っている人の姿が見えた。

ウルフガングだ!

時刻は午後10時半だった。ほとんど14時間漕ぎっぱなしだった。

「あのさ、ユーコンクエストの人たちが来た時、2人とも速くなったよね」

「そうそう!負けてられないと思って!」とマリアンが笑う。


直後にホワイトホースで出会ったイギリス人の2人が来た。もう結構バテバテだ。なんだそれほど速くもないんじゃん。これは、人を見た目で判断してはならないということと、いやいや速ければすごいというわけではなく挑戦しているだけで彼らはすごいのだ、という教訓と反省だ。


到着して15分後、周囲はヘッドライトが必要なほど暗くなり、強風が吹く嵐になった。

やはり到着はかなりギリギリだったみたいだ。

ウルフは「このキャンプサイトでクマを見た人がいるらしいから火を焚いた方がいい」と言っていたが、強風で断念せざるをえなかった。


僕のコンロでパスタを茹で、ウルフたちが買ったソースをかけた。

パスタが一部焦げていることなんて、そもそも日本にいる時から気にならないのだけど、そんなことさらに気にならない。トマトが体に染み入るようだった。


「さあ、今日頑張ったから明日はリラックスする日だ」。

そう言いながらウルフは食料をテントの前、しかもどちらかといえば僕のに近い方においた。あれ、ウルフ、さっきまで「クマに警戒して焚き火を」なんて言ってたよね?

ちなみに彼らの食料入れは強固堅牢なベアバレルではなく、ホームセンターで売られているアクションパッカーという道具入れである。これも頑丈でとても便利ではあるのだけれど、クマにかかれば破壊は容易だ。

うーんと思っている間に、ウルフはテントに入って寝てしまった。もうどうにでもなれ。



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by n11t | 2016-11-06 07:00 | ユーコン川


朝。重たいベアバレルと100リットル超の防水バッグなどを2回に分けてカヌーピープルまで運び、受付で今日が出発日だと伝えた。


受付にいたのは前日まで店にいなかったオーナーのスコットさんだった。彼は野田さんの旧来からの友人で本にもよく登場する。野田さんに紹介されてここを選んだと伝えると喜んだ。


「(野田さんには)彼が筏で下って以来、もう2年も会ってないよ」

「多分、もう一度来たがっていると思いますよ」

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スコットが道具の説明をしてくれた。「やっぱりクマのことが心配なんだよね」と問うと、「きちんとやるべきことをやってたら大丈夫。火傷も切り傷もそうだけど、旅で起こる問題は大体バカなことをした時に起こるもんだよ」と彼は行った。ちなみにカヌーピープルで客がクマに襲われるという事故が起こったことはないという。


また彼は付け加えた。

「ベアバレルの上に洗った食器を置いておくといい。クマが触って食器が落ちたら音がするから『おっおー、問題が発生だぞ』と教えてくれる」

なるほどそれは頭がいいと思ったが、出発してから思った。で、その後はどうすればいいんだ?


午前10時半、出発。ギアを入れて来たスーツケースはカヌーピープルが預かってくれた。


初めてのカナディアンカヌーは滑るように水面に出た。カヌーピープルの建物があっという間に通り過ぎる。シングルパドルの操作法はまだぎこちないが、この後、嫌というほど練習できるだろうと思った。

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快調にカヌーが流される場所があれば、定期的に1キロ以上ある池のようなの淀みが訪れた。離陸した水上飛行機が頭上を通り過ぎ、遠くの木にはハクトウワシの姿も見える。

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水際のアシにルアーを投げたり、トローリングしたりしてみたが、残念ながら当たりはなかった。どんな場所に魚がいるかは、まだ手探りだ。

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午後5時、地図にGood Campと書かれている場所に着いた。

そこで川に出て初めての旅行者に会った。旅行者はデンマーク人のジョナスとその彼女。ユーコンは3回目だという。「デンマークにはこんな川がないからね」と彼は言う。


川地図にはキャンプ地の情報が多く書かれていて、次のようなレベルで分類されている。


Developed Camp(整備されたキャンプ場。ベンチや机、トイレもある)

Good Camp(平ら快適。ベンチなどがあることも)

Potential Camp(キャンプの可能性のある場所)

といった具合だ。


このほかExcellent CampやVery Good Campもあるが、Good Campとほぼ同じと考えて良いと思う。Excellentが腰までの雑草に覆われ、Goodが眺めも良い最高の場所だったこともあるからだ。おそらくは作成者の主観か地図ができてからかなり時間が経っているかだろう。


今日たどりつけそうな範囲にもGood Campはまだありそうだったので、僕は先に進んだ。もちろん、これらのキャンプ地以外にテントを張ることも可能だ。


少し行くと全長52.5キロの細長い湖、レイクラバージュに入る。パドラーはここを横断しなければならない。

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レイクラバージュの始まり


日が傾き、光が暖かい黄色に変わってきた。茂みでガサガサという音がしたので目を向けてみるとクロクマが顔を出した。やっぱりいるんだ。まさか初日から出会うとは。

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アメリカクロクマ


右岸の方が沿岸が起伏が少ないので岸沿いに安全に進めるとされていて、その通りに進んだ。ただ数時間漕いで、自分が地図上のどこにいるのかわからなくなった。地図が示すGoodCampがどこなのか全くわからない。


GoodCampを突き止めるのは諦めてビーチに上陸し、テントを張った。焚き火の跡があり、以前にもキャンプした人がいるようだった。


初めてのカナダのキャンプ地。水辺から10メートルも離れればそこは森となっていた。さっきクロクマがいたのもこんなところだった。ビーチにはしっかり熊の足跡もあった。


食料はどこに置こけばいいのか。

いざという時に逃げられるように、カヌーはテント近くに置くべきだろうか。

森で用をたす際は、どれくらいまでが安全なのか。

とにかく自分が思う正解を信じるしかなかった。


食事を終えてテントに入り、寝袋に潜り込んだが、風音が全てクマの足音に聞こえた。最初は何度も飛び起きたが、疲れていたのか、しばらくするとすぐに深い眠りについてしまった。

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初日のキャンプ地



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by n11t | 2016-11-05 07:00 | ユーコン川
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ついに車を手にいれた!
1997年式セフィーロワゴン、走行距離約20万キロ!
日本で乗っていた車よりボロボロ!セフィーボロだ。

車いじりが好きな前オーナーさん曰く、エンジン系統などは問題なく元気だと言う。実際試乗した時も快適に走った。

見た目ですぐにわかるが、とても長い車だ。
しかも後部がフルフラットになるので、慎重165センチの僕は楽々、車中泊ができる。

細かいところもキャンプ仕様の車にとても向いていると思った。
まず、荷台の下にある収納スペース。荷台が広い車はコーナーが多い場所では荷物が右へ左へと滑ってしまうことがあるが、小物をここに入れておくと気にならない。
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それと荷台のドア。少し重いのと引き換えに、中途半端な場所でも止まってくれる。
例えば小雨が降っている時、ドアをやや下の位置に下げると雨が防ぎやすくなる。
運転席左側の肘当てにも荷物が入る。
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フロントと最前列以外は窓がスモークになっている。寝ている時の日光もかなり遮れるし、かなり近づかない限り中は見えないので防犯にもよさそう。

前のオーナーさんはキャンプをする人ではなかったようだが、かつてのオーナーはキャンパーだったのではないか。荷台下のスペースからはブルーシートと多くの張り綱、新品のゴミ袋が出てきた。

車を見つけるまで

日系の美容室で髪を切ってもらっていて「車探してるんですよね~」となんとなく喋ったところ、「友達が売り手探してますよ!」この車を教えてもらった。

ニュージーランドに入国して、まず始めたのが車探しだった。
決待ったのは入国3日目の10月11日だったけれど、ワーホリ中の売主さんが日本に帰るまで少し期間があったので、3週間待った。

車を見つけるまでは紆余曲折だった。

まずニュージーの入国翌日に、中古車市のオークランドカーフェアへ。
ここではイラン人の中古車屋がキャンプ用に改造した3000ドルのセレナを勧めてきた。彼には好感が持てたし「事故などがなければ1年後に半額で買い取る」という条件には引かれたがやはり高かった。「他には?」と聞くと「店にはもっとある」という。なので翌日はお店へ行った。

しかし翌日に対応したのは別のちょっと胡散臭いイラン人。「こんないい価格はないぞ」とキャンプ使用のオデッセイ走行距離30000キロを3000ドルで勧められるも、試乗するとエンジンを踏んだ感じがどうにも重い。見た目も相当なボロボロ。

断って帰り、NZdaisukiを見たところ、同じオデッセイで24000キロが2800ドルで出ていた。「やっぱり辞めてよかった」と思って試乗を依頼。でも結局その翌日にこの車が決まり、お断りすることとなった。

キャンパーバンについて

上で「キャンプ用に改造したセレナ」が出て来たが、そのような車はこちらでは「キャンパーバン」と言う。セレナやハイエースなどがベースなら、こんな風に改造された車だ。
  • 木でフレームを設置。
  • フレームの上はベッド。下は荷室。
  • ハッチバックを開けると収納棚になっているものも。
  • ベッドをテーブルと椅子に変形できるハイブリット型も!

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ちなみにこれはこちらはハイエースをベースにして改造し、最高なペイントをしたレンタカー!
かっこよすぎ!エスケープレンタル

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by n11t | 2016-11-04 11:18 | ワーキングホリデー

出発前の最後の一日。

レンタサイクルの返却までにまだ時間があったので、川沿いを上流に走ってダムを見に行った。

こちらに来てから、午前晴れて、午後に雨が降るというサイクルが続いていた。

この日も朝は川がキラキラと輝いていた。


ホワイトホースダムはユーコン川本流にある唯一のダムだ。

ダムの下側からダム湖に向かって、木製としては世界最長とされる366メートルの魚道がつけられている。

魚道の設置は1959年。サケの遡上が古くから重要視されていたことがわかる。

資料館の展示によると、ユーコン川は世界で最も長い距離をサケが遡上する場所なのだそうだ。


夕方、ホテルに戻って最後のパッキング。

レンタルしたベアバレルに食料を詰め込む。

ベアバレルは蓋の周りに金具をはめ込んで硬く固定し、クマによって開けられないようにしている。

明日からついにユーコンの荒野へ。


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by n11t | 2016-11-04 07:00 | ユーコン川

カヌーピープル

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ホテル5分も歩けばユーコン川のほとりにたどり着く。流れは力強く、水は深い青色。魚の姿も見えた。

カヌーをレンタルするカヌーピープルもそこにある。庭には多数のカヌーやカヤックが積まれているのですぐにわかった。出発は店の横の河原からできるようだ。

ツーリングの開始までは2日あった。その間に食料や足りていない道具を買い、ホワイトホースを観光する予定にしていた。

カヌーピープルの店内にはドライバッグから鍋、虫除けスプレー、ナイフなどが所狭しと並んでいた。本当に実用的なものを選んでいるという印象だ。ユーコンの川旅に必要なものはほとんどここで手に入るのではないか。ただし釣り道具は取り扱っていない。

僕は到着を伝え、レンタルの支払いを済ませた。


ユーコンの土産屋

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メイン通りで土産物屋を物色していると、「ユーコンキャンプファイヤーコーヒー」という楽しいコーヒー豆を見つけた。裏に書いてある淹れ方はこうだ。


 ・ビリー缶をフレッシュなユーコンの流れに浸します。

 ・キャンプファイヤーで湯を沸かします。

 ・この独特なコーヒーを二掴み、お湯に入れてください。

 ・火から離して、岩か薪の上で3~4分冷まします。

 ・そのうちコーヒーの屑はそこに沈むでしょう。 

 ・そうしたら慎重にマグを缶に入れてすくってください。

 ・あとはゆっくり腰掛けて、ユーコンの朝日を楽しんで。


「挽いたコーヒー豆に真ん中から静かにお湯を注いで蒸らす」といった近代コーヒーの流儀に「しゃらくせえ!」と石を投げつけているようだ。自分用とお土産用に2つ購入した。


店に並ぶTシャツには色々なイラストが描かれており、カナダ人があの手この手でキャンパーを脅そうとしている。


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カナダ式テイクアウト

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ビールが落ちていても拾ってはいけません。

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ハイキングのガイドライン。グループの中で必ず自分は誰かより足が速くなければ行けません。


川辺でフードトラックでホットサンドを買って食べた。カリッと焼いたパンはバターが香り、中にはチーズがたっぷり。ユーコン川を眺めながらの昼食。これって幸せってやつじゃないのか。


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大きなアウトドア用品店があり、そこで99ドルのタープを買った。必要かどうか迷ったが、この決断が正しかったことをあとで知る。


スーパーマーケットでは、行動食のドライフルーツ、ナッツ、パスタ、パスタソース、チョコレートなどを買い込んだ。スーパーではドライフルーツは量り売りされていて、好きな量を買うことができる。ドライフルーツを行動食にするのは、ユーコンの先輩、川の学校元スタッフのクラがやってたことだ。


釣り道具を買う

KPでレンタサイクルを借り、パンフレットに”fishing gear”と書かれていた店に向かったが、そこには店の気配すらなかった。アップダウンがある道を片道40分進んで汗まみれだったが、仕方なく引き返した。


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ユーコン川の対岸では雷が落ち、文字通りバケツをひっくり返したように豪雨が降っているのがわかった。


KPに戻って尋ねると、道中で見かけたCanadian Tireという大きな店がホームセンターで、釣具はそこにあった。「カナダのタイヤ産業も頑張ってるんだな。ネーミングは”トーヨータイヤ”みたいなネーミングかなあ」などと考えながら通りすぎた店だった。


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店内には数十本のフライ、ルアーのロッドが並び、各種ルアー、フライ、キャンプギアからライフルまで並んでいた。フライは店員さんに聞いたところ、「今はモスキトーパターンだ」と言って、頭に金属のおもりが付いたニンフを勧められた。


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確かにタイヤも置いていた。ちなみにTireにホームセンター的な意味があるのか調べてみたけれど、しっくりくるものはなかった。


ユーコンの地元ビール

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一雨が去ったのでまた自転車に乗り、地元のビール醸造所「YUKON BREWING」へ。

LONGEST NIGHT(最も長い夜)

UP THE CREEK(支流を遡る)

など名前がいちいち面白く、イラストもいちいち可愛い。


僕は4種類24本を購入した。その1つがこちら。

LEAD DOG ALE(橇犬のエール)


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旅が終わってからバンクーバー十数種の地ビールを飲んだが、それよりも格段に美味しかった。



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by n11t | 2016-11-03 07:00 | ユーコン川

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突然だがどうでもいい話をする。

アメリカ映画で、事件現場に駆けつけた刑事が箱に入ったチャイニーズを食べているシーンを見たことがないだろうか。おそらくは「多忙でゆっくりと食事する時間もない」という表現なのだろう。具体的にはデヴィットフィンチャーの「ゾディアック」くらいしか思い浮かばないが、僕は「あのテイクアウェイはどんな味がするんだろう」とずっと思っていた。


バンクーバーでカナダに入国し、夢の箱入りチャイニーズフードを食べた。米麺の焼きそばであったが、おいしくなかった。麺の感触も、食べる僕の姿も「もそもそ」という擬音がしっくりきた。

そんな旅の始まりだった。



バンクーバーから旅の出発点ホワイトホースへは飛行機で2時間。映画が途中で終わる中途半端な空の旅で、ディズニーの「ズートピア」を見ていた隣のおじさんは事件の黒幕が判明したシーンで着陸となってしまった。ちなみにズートピア、僕は成田ーバンクーバー間でばっちり全部見ていた。



ホワイトホースに着いたのは夕刻だった。

バスがなかったため、仕方なくタクシーを使った。濃い灰色の雲から大粒の雨が降り始めた。どうやら旅も簡単ではなさそうだなと思った


市中心部まではタクシーで10分ほどで、20ドル前後。宿泊したのはエクスペディアで「立地がとても良い」と評価されていた「エリートホテル」。1泊100ドル程度。部屋でWi-Fiが使えないと言う欠点はあったが、確かに立地は最高だった。


荷物を部屋に放り込んで一息つくと雨が上がっていた。街を散策し、川辺を歩き、街のはずれのスポーツバーでは試合を流していた。本拠地トロントとは正反対の場所にあるが、やはりここはカナダなのだ。


ホテルに帰ってベッドに入ったが、外はまだ明るかった。周囲は午前0時頃にやっと暗くなった。


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by n11t | 2016-11-02 07:00 | ユーコン川

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雨の虎杖浜  


6月14日、関空発のピーチで北海道へ。モンベル社員の友人いっぺーとの2人旅で、ユーコンへの道具テストなどやりたいことがたくさんあった。


新千歳空港でレンタカーを借り、雨の中を南下。小雨の中、波しぶきが散る虎杖浜でタラコの海鮮丼を食べ、のぼりべつクマ牧場へ向かう。


のぼりべつクマ牧場の存在はTBSラジオ「たまむすび」で知り、おもしろそうだと思っていた。ユーコンで野生のクマに出会う前に、クマの存在感に慣れておこうと考えていた。


駐車場からロープウェイに乗り頂上へ。眼下には深い笹原が広がっていた。「こんなところで絶対にクマに出会いたくないな」と苦笑。雨は本格的に降っており、カッパを上下とも着なくてはらなかなった。

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ヒグマには「車がぶつかっても決してビクともしないのではないか」と思わせる圧倒的な重量感があった。そのゆったりとした動きに強さの説得力があった。


出会ったら多分ビビって何もできない。抗おうとしても無理だ。出会わない、出会っても人に興味を持たせないが最善、と見た。


傍らには資料館もあり、クマの剥製の展示、生態の解説などがされている。資料の情報をまとめると、クマ対策はこうだ。

①子連れ、出合頭が要注意。クマの出現が心配される際には声など音を出して存在を知らせる

②テントの中や近くに食べ物を置かない

③それでも出会ってしまったら、視線をそらさず

④後ずさりし

⑤バックパックを置くなどして注意をそらせて立ち去る

⑥仮にも襲われたら首の後ろを手で守りうつ伏せになる

⑦あきらめない。


「吉村昭の羆嵐は絶対に読まない」と言う個人的な見解も加えておく。


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資料館の展示。こんなの絶対無理!


その後、札幌、すすきのへ。

美味しいジンギスカンと寿司を食べ、個人的な外交問題で頭をかかえるいっぺーを傍目に寝た。


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by n11t | 2016-11-01 07:00 | ユーコン川